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在留資格手数料の引き上げは何をもたらすのか

株式会社 PUTZ Network プツ・ネットワーク
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Ⅰ.導入:ある架空のマンションの物語


本稿は、専門的な議論に入る前に、理解を助けるための比喩的な物語から始めたい。あくまで仮想の設定である。


ある閉鎖型のマンションがあった。そこでは長年、「人間のみ」が居住を許可されていた。しかし住民の高齢化が進み、子どもは減少し、空き部屋が目立つようになっていた。もともとこのマンションでは、各住民が自室の清掃やネズミ駆除を行うことが暗黙のルールであり、管理費の支払いに加え、住民同士の助け合いによって秩序が保たれていた。共用部の清掃も互いに補い合っていた。


ところが空室の増加に伴い、ネズミや害虫が増え、従来の自助的管理だけでは対応が困難になった。そこで管理側は「ネズミ退治のため、動物の入居を認めよう」と決断する。


最初に許可されたのは犬であった。犬はある程度のしつけが可能であり、人間社会への適応も期待された。しかし犬が常に訓練済みで来るとは限らない。本来であれば、受け入れ前の訓練制度、受け入れ後の適応支援、そして既存住民側の理解と協力が必要であったが、そうした制度設計は十分には整備されなかった。それでも犬は、一定の問題を起こしながらも、比較的共存可能な存在であった。


その後、より効率的であるとして猫の入居も認められる。猫は小型でコストが低く、ネズミ駆除に特化している。その結果、犬よりもはるかに多くの猫が入居した。しかし猫は犬より制御が難しく、トイレの方式も異なり、マーキングを行い、集団を形成するなど、人間社会との調整には追加的な制度設計が必要であった。


ここで重要なのは、猫だけが人間と異なる言語体系を持っているわけではないという点である。犬もまた人間と同じ言語を話すわけではない。違いは「言語の有無」ではなく、「適応可能性」にあった。犬は訓練次第で人間社会のルールに合わせることができ、反復学習を通じて行動を修正する能力が高い。そのため、言語が異なっていても意思疎通の代替経路を構築しやすい。一方、猫は個体として優秀であっても、集団的統合という観点ではより複雑な調整を要する。


また、犬は確かにコストが高い。体格も大きく、管理にも労力がかかる。しかしその分、ネズミ駆除以外にも警備や補助作業など多用途での活用可能性を内包している。猫は効率的であるが、用途は限定的であり、制御性という点では制度的補完が不可欠である。


問題は、どちらが「良い」かではない。受け入れる側が、それぞれの特性を理解し、適切な制度設計と支援体制を準備していたかどうかである。しかし管理側は「コミュニティを作れば自律的に機能する」と考え、十分な制度設計を行わなかった。


やがて一部の区域では猫の数が人間を上回る。猫は確かにネズミを捕るが、必ずしも効率的とは限らず、問題は継続する。飢餓を防ぐために本来人間向けであった生活保護制度が適用されるが、その設計思想との整合性は十分に検討されていなかった。通訳も専門家もおらず、対応はボランティアに依存する。


やがて一部のトラブルが報道され、管理側は「問題は動物にある」と語り始める。結果として、比較的共存しやすかった犬が退出し、制度上増えやすい構造にあった猫が残る。ネズミは減らない。


ここで問われるべきは、本当に問題は「動物」にあったのかという点である。もし初期段階で十分な制度設計を行わず、受け入れ後にコストのみを強調し、最終的に責任を属性に帰すのであれば、それは政策設計の問題であって特性の問題ではない。さらに管理費を引き上げれば、負担に敏感な層から先に退出する可能性がある。制度に適応していた存在が去り、退出コストの低い存在だけが残るとすれば、それは当初の目的に沿った帰結なのだろうか。


Ⅱ.犯罪統計と在留構造の実像


近年、日本政府の発表や報道において、外国人の増加と犯罪の関係が政策強化の根拠として取り上げられることがある。しかし統計を精査すると、その構造は単純ではない。


2023年(令和5年)の刑法犯国籍別検挙人員統計によれば、来日外国人の検挙人員数はベトナムが最多であり、中国、韓国・朝鮮、インドネシアが続き、その後にブラジルが位置している。一方、同時期の在留外国人統計では、在留者総数は約341万人で、中国が最大、次いでベトナム、韓国、フィリピン、ブラジル、ネパール、インドネシアと続く。


ここで注目すべきは、同じ「在留外国人」というカテゴリーの内部に、在留目的や家族構成、定住志向の違いが存在している点である。例えばブラジル国籍者の中には日系人およびその家族が多く含まれ、定住志向が比較的強い。一方、近年増加しているアジア系国籍の多くは技能実習や特定技能など、一定期間の就労を目的とした在留資格が中心であり、家族帯同が限定的なケースも多い。


検挙人員数が多い国籍と在留者数が多い国籍が一定程度重なっている事実は、犯罪件数の増加が人口規模の増加と並行している可能性を示唆する。絶対数のみをもって治安悪化の主体と断定することは、人口規模を無視した分析となりかねない。


実際、近年検挙人員数が上位にある国籍の多くは、労働力確保を目的とする在留資格で来日している割合が高い。また、在留者数の増加と検挙人員数の増加との間には一定の相関関係が確認できる。これは特定の国籍が本質的に犯罪傾向を持つことを意味するものではなく、人口動態的要因によって説明可能な側面が大きい。


重要なのは、受け入れ拡大の段階で生活支援体制、言語支援、地域統合プログラム、リスク分析といった制度的基盤が十分に整備されていたかという点である。労働力としての受け入れが迅速に進められた一方で、社会統合の制度設計が後追いであったとすれば、一定の摩擦が生じることは予測可能であった。


さらに、人口10万人当たりの検挙人員で見ると、日本人と外国人の差は必ずしも決定的ではないとされる分析もある。したがって、人口構成や在留資格の種類を考慮せずに議論することは統計的に精緻さを欠く。


Ⅲ.制度強化と行動反応の非対称性


近年、永住許可や在留資格更新の手数料引き上げが進められている。これを経済学のラッファー曲線の視点から見ると、同じ負担増であっても層によって反応が異なる可能性がある。


ラッファー曲線は、税率や公的負担を引き上げれば税収が必ず増え続けるわけではなく、一定水準を超えると行動変化によって逆に税収が減少する可能性があることを示す理論である。その本質は、負担水準そのものよりも、負担に対する行動反応に着目する点にある。


在留制度に応用すれば、家族帯同で長期定住を志向する層は将来設計を前提としており、予測可能性の低下や継続的負担増加に対して敏感に反応する可能性がある。一方、短期就労や収入最大化を目的とする層は、すでに高額な仲介費用等を負担しているケースもあり、追加的負担を生活様式の調整によって吸収する可能性もある。


実際、多人数で住居を共有する事例も報告されており、これには当事者や支援団体からの厳しい生活環境への指摘と、地域住民からの懸念が併存している。しかし同時に、家賃を分担するという経済合理性も存在する。こうした行動様式は長期定住志向層とは異なる意思決定構造を持つ可能性がある。


もし非対称的な行動反応が生じれば、制度強化は長期的統合を志向する層から順に退出を促し、相対的に退出コストの低い層を残す結果をもたらしうる。さらに負担増が定住志向層に強く作用するならば、長期定住層の減少と循環型労働者の相対的増加という構造変化も理論上想定される。


それは果たして、政策目的と整合的な帰結であろうか。


Ⅳ.負担・権利・政策一貫性


定住者が社会保障制度を利用していることを問題視する議論もある。しかし外国人も日本人と同様に税を負担している以上、「負担」と「権利」の均衡という観点からの検討が不可欠である。


仮に外国人を限定的な労働供給者として位置付けるのであれば、その前提条件と政策目的を明確にしなければならない。在留制度の強化が治安維持や社会統合という目的とどのように整合するのかは、今後も検証されるべき課題である。


制度変更の意図のみならず、その帰結をデータと行動理論の双方から検討することが、政策の一貫性を確保するために求められている。


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